2021年4月掲載の書評について、信濃毎日新聞様が掲載許可をくださいましたので、こちらに掲載させていただきます。
[書評]ドローダウン・地球温暖化を逆転させる100の方法 気候危機に専門家の知の結集(井出留美)
2021.04.24 信濃毎日新聞朝刊 15面(読書面2面)
ドローダウン 地球温暖化を逆転させる100の方法
ポール・ホーケン編著、江守正多監訳、東出顕子訳
環境活動家のグレタ・トゥンベリさんは船で国際会議の会場へ移動した。彼女の住むスウェーデンでは、飛行機の搭乗は恥ずかしいという意味の「飛び恥」という言葉も生まれた。確かに移動距離1キロ当たりで比べると、航空機の二酸化炭素排出量は鉄道の5倍以上になる。が、航空機が世界の温室効果ガス排出量に占める割合は1%台(WRI=世界資源研究所による)。
書名の「ドローダウン」は本来、井戸の水位の減少などを表す言葉だ。環境専門家は「大気中の炭素量を減らす」意味で使っている。この本には、二酸化炭素の削減策が、削減量の多い順に100番目まで示されている。航空機関連の削減効果は43位。食料廃棄の削減は効果が大きく3位。食料生産は世界の温室効果ガス排出量の37%を占め、食品ロスは8~10%。食分野の営みが気候変動に与える影響は膨大だ。
編著者で環境保護活動家のポール・ホーケンがこの問題に関心を持ったのは2001年。地球温暖化防止対策を専門家に尋ねたが、そのリストはなかった。13年、気候変動の論文が次々発表され、危機感を募らせたポールは100の確実な解決策を特定するプロジェクトに取り組むと決めた。膨大な調査に基づき、世界各国約200人の地質学者、エンジニア、気候学者、農学者ら専門家の知の結集が書籍となった。日本語翻訳の資金はクラウドファンディングで集めた。1193人の支援と1200冊の事前予約が集まり、今年1月に日本語版が出版された。
食品ロスの講演をすると、「ロスを減らすと経済が縮む」「環境より経済」といった反論をいただく。生ごみを含む焼却ごみ量は世界で日本が最も多い。「レジ袋?燃やした熱を使えばサーマルリサイクルになる」という声もあるが、残念ながら、1980年代から環境教育を進めてきた欧州では焼却はリサイクルとみなされない。
気候危機に際し、1人でこの100の方法全てをやろうとするよりも、100人がこの中の一つずつでもやる方が取り組みやすいはずだ。
(山と渓谷社・3080円)
【評】井出留美(ジャーナリスト)本紙書評委員